当ブログは、ビジネスシーンで作成する資料で“誰でも・手軽に使える”デザイン・レイアウトノウハウ・Tipsをお伝えしています。
今回はパワーポイントで資料を作る際に頻出のグラフを、より見やすく・わかりやすくするためのデザインのポイント、具体的なやり方についてまとめてみました。
企業の資料デザイン研修の講師として登壇することも多いデザイナーの筆者が、日頃受講者さんにお伝えしているノウハウをそのまま整理しているので、普段プレゼン資料等を作ることが多い方の参考になれば幸いです。
- パワーポイントのグラフを見やすく・わかりやすくするための考え方
- わかりやすいグラフを作るためのポイント(全グラフ共通・個別)
- 株式会社トリッジ代表取締役 / デザイナー / コンテンツディレクター
- グラフィック・WEBデザインやオウンドメディアの運営サポート・ディレクションを手掛けつつ、パワポ資料作成の研修講師兼アドバイザーとしても活動中。パワーポイント資料作成の企業研修実績も多数(延べ150社以上、2,000人以上にレクチャー)。著書に『ひと目で伝わるプレゼン資料の全知識』(株式会社インプレス発行)がある。
グラフは見せ方に工夫が必要
プレゼン資料や企画書・報告書をパワーポイントで作っていると、よく使うことになるのがグラフです。ビジネスシーンの資料において、グラフは超頻出の要素と言っていいでしょう。
ただこのグラフが意外と資料デザインにおいては厄介だったりしませんか? 実際にこれまで私のデザイン研修・セミナーの受講者さんからも「グラフが見づらくなってしまう」とか「グラフが美しくならない!」なんて声をよく聞いてきましたから、おそらく多くのビジネスパーソンがグラフデザインを苦手としているのではないかと感じています。
確かにグラフは狭いデザインスペースの中に色々な情報(数値、文字、線、凡例…etc)がたくさん出てくるので、非常にゴチャゴチャとしやすく、デザインが複雑化しやすいんですよね。そのため、グラフは資料の他の要素よりも、さらに見せ方に工夫が必要です。
今回は、そんなグラフを見やすく・わかりやすくするためのポイントや考え方をまとめていきます。よく使うグラフも含めて網羅的にポイントを整理していきますので、グラフデザインの参考にしてみてください。
わかりやすいグラフにするために意識すべきこと
具体的なグラフデザインのポイントに入る前に、まずはわかりやすいグラフを作るときに必要な考え方を整理しておきます。特に必要な考え方は以下の3点です(詳細は下に続きます)。
- 内容を瞬間的に理解できるようにする
- 伝えたいことをはっきりと強調する
- 余計なものはバッサリ捨てる
①内容を瞬間的に理解できるようにする
まず1つめは「内容を瞬間的に理解できるようにする」ことです。先にお伝えしたとおり、グラフはとにかく狭い範囲に色々な要素が出てくるので、脳にとって情報処理に時間がかかりやすいものなんですよね。
情報処理に時間がかかると、脳は必ず「わかりづらい!」という判断を下すようにできているので、とにかく“パッと見ただけで内容が理解できる”ような(=スピーディーに情報処理ができる)デザインにしてあげなければいけません。
そのため、なるべくグラフは“シンプルですっきりとした見栄え”にしてあげましょう。これはグラフデザインにおいて必須の考え方です。
なお、脳の情報処理とわかりやすさの関係性については、以下の記事で詳しく解説しているので、お時間あればこちらも併せてご覧ください。
②伝えたいことをはっきりと強調する
瞬間的に理解できるような見栄えにするためには、そのグラフで“伝えたいことをはっきりと強調する”ことも大切です。たくさんの要素が出てきている中で、どこが重要なのかがすぐ判断できないと、やはり脳は情報処理に手間取り、「わかりづらい!」と判断してしまいます。
グラフの中のここを見てほしい、この数値の変化が意味すること伝えたい。そんな箇所があるのなら、その点は明確に(大袈裟なくらいに)デザインで強調してあげることが大切です。
具体的な強調方法は後述するので、そちらもご参考ください。
③余計なものはバッサリ捨てる
さらにグラフの場合は「余計なものはバッサリ捨てる」ことも重要。何度も言いますが、グラフはとにかく狭いスペースの中にたくさんの要素が出てきます。その中に「伝えなくてもいいこと」が混ざっていると、脳は「これも大切な情報なのかな?」と思ってしまい、これまた情報処理スピードが落ちていきます。
そのため少しでもスピーディーに情報処理できるように、伝えたいことを強調しつつ、「伝えなくていいこと」をバッサリとカットするようにしましょう。
たとえば、プレゼン内容と関係ない年のデータまでグラフに載っているケースは非常によく見かけるので、グラフを作る前に情報の取捨選択が必要です(詳細は後述「不要な情報は入れない」を参照)。
わかりやすいグラフデザインのポイント
わかりやすいグラフを作るときに意識すべきこと・考え方を整理した後は、グラフをデザインするときの具体的なポイントをまとめていきます。
今回は「全グラフ共通のポイント」と「よく使う個別グラフ(棒グラフ・折れ線グラフ・円グラフ)のポイント」に分けて網羅的に解説していくので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
全グラフ共通のポイント
まずは全グラフ共通のデザインのポイントです。このポイントを押さえれば、ある程度どんなグラフを作るときでも見やすい・わかりやすい見栄えにすることができるので、グラフ作成時の“最低限守るべきデザインのポイント”として意識してみましょう。
- 2Dグラフを使うる
- 使う色は3色以内
- 強調箇所にメインカラーを、それ以外はグレーを使う
- 複数箇所に色付けするときはなるべく色の濃淡で表現する
- 目盛線を消して数字を直接書き込む
- 凡例を消して項目名を直接書き込む
- 単位は1箇所だけに入れる
- 強調したい文字を大きくする
- 不要な情報は入れない
①2Dグラフを使う
まず絶対に行うべきポイントは「2Dグラフを使う」ことです。パワーポイントのグラフには立体的な見栄えになる3Dグラフも用意されていますが、基本的にこの3Dグラフを使うのはNG。3Dグラフは不要な影や奥行きが入るのでデザインが複雑化しやすく、見栄えがゴチャゴチャします。
そもそもビジネス資料で最も大切な“伝える”という点を考えたときに、グラフが3Dである必要性はないはず。3Dグラフではなく、平面的でシンプルな2Dグラフを使うようにしましょう。
②使う色は3色以内
これは別の記事でもお伝えしていますが、資料デザインにおける配色は「Max3色まで」(ベースカラー・メインカラー・アクセントカラーの3色)が絶対ルール。これはグラフをデザインするときでも必ず守りましょう。
色数が多いとグラフの中の「どこが重要なのか」がパッと見ただけでは判断しにくくなります。たとえば下の例のようにたくさんの色がグラフに使われていると、どこについて話したいのかわかりにくいですよね。
そのためグラフにおいてもなるべく使う色を絞ってあげるのが大切です。
パワーポイントにおける配色のルール・方法については、以下の記事で詳細に解説していますので、お時間あればこちらも併せてご覧ください。
③強調箇所にメインカラーを、それ以外はグレーを使う
使う色の数については②のとおりですが、では具体的にどんな色を使えば良いのでしょうか。そのポイントとしては「強調箇所にメインカラーを、それ以外はグレーを使う」のがおすすめです。
グラフを入れるときは、必ず「ここに注目してもらいたい!」という箇所(=目立たせたい箇所)があるはず。そこにメインカラーを使い、それ以外の箇所(=目立たせたくない箇所)にグレーの色をつけてあげることで、色がついたメインカラーの部分がより強調されるようになります。
グレーは文字に使う黒の同系色のため、配色のルールとしても“使ってOK”な色。しかも“他の色を邪魔しない無彩色(ニュートラルカラーと呼ばれます)”なので、色がついている箇所をより目立たせてくれる力を持っています。
パッと見ただけで内容がわかるグラフにするためには強調箇所を明確にする必要があるので、この色使いもうまく活用してみてください。
メインカラーをはじめとした“使う色の役割”については、以下の記事もご参考ください。
④複数箇所に色付けするときは色の濃淡で表現する
ただグラフによっては「複数の箇所に色をつけたい!」というケースもあり、そのときに「3色以内だと色が足りないのでは?」と感じる方もいるはず。そんなときは3色(ベースカラー・メインカラー・アクセントカラー)の“濃淡の色”で表現すると良いでしょう。
濃淡の色であれば“色味の数”自体は増えていないので、使っても色の統一感が保たれ、デザインのゴチャゴチャ感も生じません。複数箇所に色付けしたい場合は、うまく色の濃淡(同系色のグラデーション)を活用しましょう。
⑤目盛線を消して数字を直接書き込む
グラフをわかりやすくする考え方として“余計なものはバッサリ捨てる”ことを前述しましたが、グラフを挿入すると必ず表示される「目盛線」も、実は“余計なもの”です。特にプレゼン用のパワーポイントのグラフにおいては、数値をわざわざ目盛線で伝える必要性はありません。
むしろグラフに目盛線が入っていると、一気に見栄えがゴチャゴチャとして複雑性が出てくるので、目盛線も思い切って削除(非表示)することをおすすめします。
ただ、もちろん目盛線を削除してしまうと棒が示す数値がわからなくなってしまうので、代わりにテキストボックスで直接数値を書き込んであげましょう(棒の近くに)。こうすることで、デザインの複雑性を和らげつつ、パッと見ただけで数値が理解できる見栄えにすることができます。
⑥凡例を消して項目名を直接書き込む
またグラフ挿入時には「凡例」も必ずセットで表示されてしまいますが、凡例もグラフが視覚的にごちゃつく原因の1つ。そのため凡例も思い切って削除(非表示)してしまいましょう。
削除した凡例の代わりに、テキストボックスで直接データ要素(項目名)を書き込んでしまえば、これだけで内容は十分伝わります。凡例がなくなると、デザインスペースもより広く取れるようになるので、グラフをもっと大きく表示することもできるようになります。
⑦単位は1箇所だけに入れる
さらにグラフの枠外によく「単位」も配置されますが、これも枠外に置くのではなく、グラフの中の数値と一緒に溶け込ませて入れてしまいましょう。この方がグラフデザインがよりスッキリ・シンプルになります。
単位を溶け込ませるときも、全ての数値に入れるのではなく、1箇所だけ入れておけば十分です。大人なら1箇所単位が入っていれば、それ以外も全部同じ単位であろうことは理解できますからね。
とにかく余計なものはなるべく入れずに、見栄えをシンプルにしていくことが重要です。
⑧強調したい文字を大きくする
文字をグラフ内に書き込むときも、重要な箇所・ワードがあるならそれらをより強調してあげる必要があります。そんなときは、その文字のサイズを他の文字よりも大きくしてあげましょう。そうすることで、大きくなった文字が強調され、目線を集めやすくなります
これは「ジャンプ率」と呼ばれるデザイン要素の1つで、プロのデザイナーも非常によく用いるテクニックです。ジャンプ率の詳細は下の記事でも解説しているので、気になる方は併せてこちらもご覧ください。
⑨不要な情報は入れない
最後のポイントは「不要な情報は入れない」こと。ここでいう「不要な情報」とは何かというと、“伝えたいこととは直接関係のないこと”を指しています。
たとえば、下の例ように10年間のデータがグラフで表示されていて、その中で2016〜2020年までの直近5年間の数値について伝えたいとします。
ただこのケースの場合、伝えたいのはあくまで「2016〜2020年までの5年間」だけなのだから、2011〜2015年のデータをグラフに載せる必要はないですよね。これではグラフが複雑化してわかりにくくなってしまうだけです。
伝えたいこととは直接関係のないデータは不要なので、必ずグラフからは外しましょう。事前に“このグラフでは何を伝えたいのか”を明確にしておくことが重要です。
棒グラフのポイント
全グラフ共通のデザインのポイントを整理した後は、ここからは個別のグラフ(棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ)のポイントをお伝えしていきます。まずは最もよく使う「棒グラフ」から。
棒グラフは共通のポイント9つに加えて、以下の3点も考慮してみましょう。
- 「量の増減」を表現するときに使う
- 最小値(原点)はゼロに
- 強調したいときは矢印と添書きを加えるのもアリ
棒グラフは基本的に「量の大小を表現する」ときに使いましょう。棒グラフはデータ量の大小が棒の長さ(高低)で表されるので、視覚的にデータの大小を判別・比較するのに適しています。
また、伝えたいことをより視覚的に強調するために、上の例のように「矢印」と「添書き」を加えるもの効果的です。ごちゃごちゃしない程度に必要に応じてちょっとしたアレンジを加えてあげることで、よりわかりやすい棒グラフデザインにすることができます。
詳しくは以下の記事で解説しているので、お時間あればこちらも併せてご覧ください。
折れ線グラフのポイント
続いて「折れ線グラフ」のポイントを整理しましょう。折れ線グラフもよく使うグラフの1つだと思いますが、意外とこのグラフは“厄介”な性質を持っているので、以下のポイントはぜひ意識したいところです。
- 「過去からの推移」を表現するときに使う
- 他のグラフ以上に、伝えたいことを明確に表現する
- 特定の点を強調したいときは丸で囲む
- 任意の期間を強調したいときは背景に色をつける
折れ線グラフは「過去からの推移」を表現するときに使うのがベターです。折れ線グラフはデータを線で繋いでいるので、“線の傾き”が視覚的に見えるため、データが時系列でどのように変化しているのか、その傾向が視覚的に掴みやすいのが特徴です。
ただし、折れ線グラフは他のグラフ以上に、伝えたいことを明確に表現しなければいけません。なぜなら、折れ線グラフは“パッと見ただけでは、何が言いたいのかが非常にわかりにくい”グラフだから。これが折れ線グラフの“厄介”な性質です。
たとえば下の例のような折れ線グラフがあった場合、このグラフの作者は何を伝えたかったのでしょうか。一瞬で判断できますか?
「①『いじめ・嫌がらせ』が増え続けている」ことが言いたいのか、それとも「②『解雇』が減少傾向である」ことが言いたいのか、それとも「③『退職勧奨』が横ばいである」ことが言いたいのか。このグラフデザインだと色々なことが読み取れてしまうため、結局“制作者の伝えたいことが(意図)”がわかりづらくなっています。
このように、折れ線グラフはデザインに工夫をしてあげないと、何が言いたいのかが非常にわかりづらくなるという性質を持っているんです。
そのため、折れ線グラフを用いるときは、必ず「何が伝えたいのか」を明確に(=強調)してあげましょう。たとえば、伝えたいことを「添え書き」ではっきりと書き込み、色使いもそれがわかりやすいように(この場合は“いじめ・嫌がらせ”にだけ色をつける)してあげればOKです。
その他のポイントも含めて、以下の記事で折れ線グラフのわかりやすい見せ方の詳細版を解説していますので、お時間あればこちらも併せてご覧ください。
円グラフのポイント
よく使うグラフとして最後に「円グラフ」のポイントもまとめておきます。円グラフにも使うべき場面や見せ方のポイントがいくつかあります。次の3点はぜひポイントとして意識しておきましょう。
- 「割合」や「構成比」を表現するときに使う
- 「量の増減」を表現するときには使わないようにする
- 不要なデータはまとめてしまう
円グラフは「ある量に占める割合や構成比を示したいとき」に使いましょう。円全体を100%として、その中に占める項目の構成比を扇形の大小で表現することができるので、視覚的に割合・構成比を理解することができます。
これに関連して円グラフで注意しなければいけないのは、「量の増減を表現するときは使ってはいけない」ということ。円グラフで量の増減を表現してしまうと、理解しづらい、または誤解を与えてしまう可能性が出てくるからです。
たとえば、商品Aの売上が「150」で、それが3年後に「180」に増えたとします。それを円グラフで表現すると、下の例のようになりますよね。
ただこの例をよくみてみると、数字は確かに「3年で30」増えていますが、商品Aの面積(青い部分)は3年後の方が小さくなっていませんか? これではパッと見たときに「増えたのか、減ったのか」が一瞬では判断しづらくなってしまいます。
なぜこのようなことが起こるのか。それは円グラフの「総量」も変わっているからです。3年後の商品Aの数値が単純に増えているだけならば、商品Aの面積も一緒に大きくなりますが、3年間の間にもちろん他の商品の数字も動きます。つまり全体の総量が変わってしまう。
そうすると、いくら商品Aの数字(=量)が増えていたとしても、その面積(=全体に占める商品Aの割合)は小さくなってしまう、ということが起こり得るのです。これではパッと見たときに、逆に「3年後に減ってしまった」ようにも見えてしまうかもしれません。
そのため、円グラフを使うときは「量の増減」そのものを表すのではなく、「シェアなどの比率」を見せる時に使わなければいけないわけですね。比率であれば必ず適切なサイズの面積が表示されます。
その他のポイントも含めて、以下の記事で円グラフのわかりやすい見せ方の詳細版を解説していますので、お時間あればこちらも併せてご覧ください。
以上がグラフをデザインするときの具体的なポイントです。
全グラフ共通のポイント・個別のグラフのポイント両方を合わせると、意外と注意しなければいけないところが多いんですよね、グラフって。でも今回の記事の内容をしっかり意識できれば、必ずわかりやすい・見やすいグラフを作ることができるので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ:グラフは一工夫するだけでわかりやすさが大きく変わる
今回はパワーポイントで資料を作る際に頻出のグラフを、より見やすく・わかりやすくするためのデザインのポイント、具体的なやり方についてまとめました。
グラフはどうしてもデザインがごちゃごちゃしやすいものですが、きちんと情報を整理しつつ、デザインにひと工夫加えてあげることで、一気にわかりやすく・見やすくすることができます。
慣れるまでは少し難しく感じるかもしれませんが、ぜひチャレンジしてみてくださいね。